「胃カメラは鎮静剤を使えば痛みを感じないって本当?」
「胃カメラのときの鎮静剤って麻酔のこと?」
内視鏡検査(胃カメラ検査)で多くの人がためらいを感じてしまうのが、胃カメラを飲むことです。
胃カメラ検査を受ける際、よく聞くのが「胃カメラを飲むと「オエッ」となってしばらく辛いし痛い」という体験談であり、検査では長時間苦痛に耐えなければならないという先入観があります。
しかし、結論からいえば、それはもはや昔の話です。
たしかに昔は胃カメラを飲む際、「オエッ」となっていますし、現代でもそれに変わりはありませんが、病院側もきちんと対策を行っています。
それが、鎮静剤です。
胃カメラ検査は現代では鎮静剤を使用しているため、昔よりも胃カメラ検査の苦痛を大幅に軽減した検査が行えます。
この記事ではそんな鎮静剤について、そして鎮静剤の必要ない胃カメラ検査についてお話します。
- 鎮静剤のメリット
- 鎮静剤を使用する際の注意点
- 鎮静剤を使用しない胃カメラ検査である「経鼻内視鏡検査」の基礎知識
胃カメラで鎮静剤を使う3つのメリット
胃カメラ検査で苦痛を和らげるのに欠かせないのが、鎮静剤です。
鎮静剤とは、使うことでウトウトとした状態にし、痛覚や防御反応を鈍くさせる薬です。
胃カメラ検査に対して「苦しい」「怖い」といった不安を持つ人は多いですが、鎮静剤を使用することで大幅に改善できます。
ここでは、鎮静剤がもたらす具体的な3つのメリットとその根拠を詳しく解説しましょう。
経口胃カメラ検査で使用する場合嘔吐感が起きにくい
鎮静剤を使用すると、強い喉の反射が抑制され、経口内視鏡特有の嘔吐感が大幅に軽減されます。
経口内視鏡とは、名前のとおり、口から胃カメラをいれる検査方法のことです。
これは、鎮静剤が中枢神経に作用し、意識レベルを下げることで緊張や防御反応を抑えられるからです。
通常、喉にスコープが触れると「異物感」を感じて自然と吐き出そうとする反射が起こります。
これは体が異物の侵入を防ぐための防御反応であり、いわゆる「オエッ」となる正体です。
この反応を「咽頭反射」といいます。
この反射に加え、体も自然と動かしてしまうため、胃カメラは侵入しにくくなり、検査に時間がかかってしまうのです。
鎮静剤で意識がぼんやりするとこの反射が弱まり、検査中の不快感がほとんどなくなります。
また、身体の無意識な動きが少なくなるため、検査中に体を動かすリスクが減り、検査全体がスムーズに進行します。
結果として、患者は「苦しくない」と感じやすく、検査への心理的負担を軽減できます。
鎮静剤の有無を比較した場合、以下のとおりです。
比較項目 | 鎮静剤なし | 鎮静剤あり |
---|---|---|
嘔吐感 | 強い | ほぼなし |
身体の力み | 大きい | 少ない |
精度 | 低下する可能性あり | 安定 |
ウトウトした状態で検査が行えるので苦痛を感じにくい
鎮静剤を使用すると、患者はウトウトした半覚醒状態となり、検査中の感覚が大幅に鈍くなります。
鎮静剤は脳内の神経伝達を抑える作用があり、痛みや不快感を感じる神経の反応を弱めるためです。
通常、胃カメラ検査ではスコープの挿入時に強い違和感や恐怖心が生じ、それが痛みを増幅させます。
例えば、歯医者で歯を削る際、自分では治療風景が見えないため、歯を削る音や刺激だけでも身が竦んでしまう人もいるのではないでしょうか。
あれも、自分に何が起こっているかわからないため、余計に痛みを感じやすくなってしまっているのが原因と考えられています。
しかし、鎮静剤によって「今どんなことが起きているのか」という意識がぼんやりすると、痛みや不快感を感じにくくなります。
さらに、恐怖心や緊張感が弱まることで、自律神経の反応が抑えられ、血圧や脈拍の上昇を防げるという生理学的メリットもあります。
その結果、患者は「気がついたら終わっていた」と感じることが多く、検査への抵抗感が大幅に低下します。
ウトウトした状態での検査なので精度の高い検査をしやすい
鎮静剤を使用すると、患者は体を動かさずにリラックスした状態を維持できるため、医師がスムーズかつ正確にスコープを操作できます。
胃カメラ検査は微細な病変や粘膜の色調の変化を詳細に観察する必要があり、わずかな体の動きが大きな妨げになります。
例えるなら、スマートフォンでカメラをしようとする際、揺れが激しいところで撮影しようとしているような状態です。
当然、きれいな写真は撮れませんし、映像も見にくくなってしまうでしょう。
鎮静剤により不意な動きや反射が抑制されると、画像のブレが減少し、カメラの映像が安定します。
これにより、小さなポリープや初期のがんなど、通常は見逃されがちな病変も発見しやすくなるでしょう。
さらに、安定した状態では病変部の詳細な観察や生検(組織の採取)もしやすくなり、診断の正確性が向上します。
このように、患者の安全性と診断精度を同時に高められる点が大きなメリットです。
胃カメラで鎮静剤を使う2つのデメリット
胃カメラ検査で鎮静剤を使用する場合、メリットだけではなくデメリットも考慮しなくてはなりません。
そんな鎮静剤のデメリットは、主に使用後は行動が大きく制限されることにあります。
そのため、検査自体は30分程度で終わっても、その日の行動で何かと禁止されるものが増えてしまいます。
ここでは、そんな鎮静剤のデメリットについてご説明しましょう。
検査後は1時間程度安静にする必要がある
鎮静剤を使用した胃カメラ検査の後は、薬の効果が完全に切れるまで一定時間安静に過ごす必要があります。
鎮静剤は中枢神経に作用して意識を低下させるため、検査後も眠気やふらつきが残る可能性があります。
当然、そんな状態で外を歩くと事故に合う危険性が増すため、鎮静剤の効果が切れるまでは安静にしていなければなりません。
一般的には検査終了後に1時間ほどリカバリールームで横になり、医師や看護師による状態確認を受けます。
この時間をしっかり確保しないと、転倒や事故など思わぬリスクが発生します。
特に、高齢者や基礎疾患を持つ方は、鎮静剤の影響が長引くことがあるため、状況確認は必須です。
また、回復後も数時間は集中力や判断力が低下している場合が多いため、当日は重要な予定を避けたほうが良いでしょう。
安全性の都合上車や自転車など運転ができない
検査当日は車や自転車、バイクなどの運転が禁止されます。
これは鎮静剤が意識や判断力、反応速度を一時的に低下させるためです。
他にも、以下の運転あるいは操作は基本1日中できないと考えてよいでしょう。
行動制限 | 内容 |
---|---|
車の運転 | 禁止 |
自転車・バイク | 禁止 |
機械操作 | 危険性が高く避けるべき |
推奨対応 | 公共交通機関や送迎を利用 |
薬の影響が完全に抜けるまでに数時間かかるため、運転中の危険回避動作や瞬時の判断が難しくなり、交通事故のリスクは大幅に高まります。
実際、医療現場では検査後の運転禁止が厳格に指導されており、違反すると自身だけでなく他人の安全も脅かす重大な問題になります。
運転の禁止は道路交通法第六十六条にも明記されており、運転した場合は違反となるので注意しましょう。
第六十六条
何人も、前条第一項に規定する場合のほか、過労、病気、薬物の影響その他の理由により、正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転してはならない。
引用:e-Gov 法令検索「道路交通法」
検査当日は公共交通機関を利用するか、家族や知人に送迎を依頼するなど事前に準備しておくことが重要です。
さらに、重い機械の操作や高所作業なども避け、できる限り安全な環境で過ごす必要があります。
どちらも朦朧とした状態の場合作業効率が悪くなるばかりか、命を落とす危険性があります。
したがって、大腸内視鏡検査を行う場合、仕事は1日休むと考えたほうが良いでしょう。
鎮静剤を使用したくないなら経鼻内視鏡がおすすめ
鎮静剤のデメリットを見て、胃カメラ検査はしたいけど鎮静剤は使いたくない、あるいは仕事柄使えないという人には、経鼻内視鏡検査をおすすめします。
経鼻内視鏡検査とは、名前のとおり鼻から胃カメラを通す内視鏡検査のことです。
その特徴は、経口内視鏡検査よりも痛みが少ないということと、人によっては使用できないという点です。
ここでは、経鼻内視鏡検査について基礎的なことをお話しましょう。
苦痛が少なく鎮静剤の必要性が薄い経鼻内視鏡
鼻から胃カメラを通すと聞くと、より苦痛を感じそうなイメージがありますが、実際には経口内視鏡検査よりも苦痛が少なく、鎮静剤を使用する必要がありません。
簡単に比較すると、以下のとおりです。
項目 | 経口内視鏡 | 経鼻内視鏡 |
---|---|---|
喉の反射 | 強い | ほとんどなし |
嘔吐感 | 起きやすい | 起きにくい |
会話の可否 | 不可 | 可能 |
安静時間 | 必要 | 不要 |
喉の奥に触れないことで、嘔吐感が大幅に軽減される仕組みになっています。
上述したように、経口内視鏡検査は喉に触れるため、咽頭反射によって「オエッ」となるのが苦痛の原因です。
経鼻内視鏡ではこの問題を回避できるため、鎮静剤を使わなくても多くの患者が楽に検査を受けられます。
鼻の粘膜に触れることで痛みを感じることもありますが、局所麻酔で対応しているクリニックもあるので、痛み対策は基本的に万全と考えてよいでしょう。
さらに、検査中に会話ができることも精神的な安心感につながります。
鎮静剤を使用していないので意識がはっきりしているため、患者は「今どの部位を見ているのか」といった説明を聞きながら検査を受けられるので、不安が和らぎます。
また、鎮静剤を使用しない場合、検査後の安静時間が不要で、すぐに帰宅や通常の生活に戻れる点も大きな利点です。忙しい人や仕事の予定がある人にもおすすめできます。
鼻の状態によっては経鼻内視鏡ができない可能性あり
経鼻内視鏡は多くの人にとって負担の少ない選択肢ですが、すべての人が受けられるわけではありません。
具体的には、以下の条件に当てはまっている場合、経鼻内視鏡はできない可能性があります。
注意事項 | 内容 |
---|---|
鼻腔の狭さ | 挿入できない可能性がある |
粘膜の弱さ | 出血や痛みのリスクが高い |
慢性鼻炎 | 腫れがあると選択できない |
事前相談 | 医師と鼻の状態を確認する必要 |
鼻腔が狭い方や鼻の粘膜が弱い方では、挿入時に痛みや出血のリスクが高まります。
これは、鼻腔が狭いと物理的にスコープが通らないことが原因です。
また、慢性的な鼻炎やアレルギー性鼻炎がある方は鼻の粘膜が腫れていることが多く、経鼻内視鏡が難しい場合があります。
こういった場合、鼻の粘膜が弱まっているため、刺激に敏感になりやすいだけではなく、粘膜が傷つき、出血するリスクが発生してしまいます。
その結果、経鼻内視鏡のメリットである痛みが少ない検査が難しくなるだけではなく、満足に管を通せないので検査に時間がかかりやすくなるため、メリットが無くなってしまうでしょう。
そうならないためにも検査前には必ず医師による鼻の状態チェックが行われ、患者の体質や既往歴を総合的に判断して適切な方法が選ばれます。
安心して検査を受けるためにも、事前に医師と十分に相談し、自分に合った最適な検査法を選ぶことが大切です。
胃カメラで鎮静剤を使う上の3つの疑問
胃カメラ検査で鎮静剤を使う場合、初めてだとどうしても様々な疑問や不安が生まれてしまうものです。
ここでは、そんな鎮静剤を使用するうえで多くの人が抱く疑問をQ&A形式で解説しましょう。
胃カメラ検査は何時間くらいかかる?
クリニックにもよりますが、検査開始から退院まで合計で3時間前後でかかります。
胃カメラ検査自体は、通常10〜15分程度で終了しますが、検査を行うまで様々な工程を踏む必要があります。
具体的な詳細は、以下のとおりです。
項目 | 所要時間 |
---|---|
検査自体 | 約10〜15分 |
準備・説明 | 約30分 |
安静・回復 | 約1時間 |
合計 | 約2〜3時間 |
胃カメラ検査で鎮静剤を使用する場合、検査前に問診や説明を受け、鎮静剤の投与準備を行います。
検査後は鎮静剤の影響が完全に切れるまで1時間ほど安静に過ごし、医師の状態確認を受けます。
鎮静剤を使用した場合、薬が切れるまで安静にしなければなりません。
しかし、鎮静剤を使用する場合は検査前後の準備や回復時間が追加されるため、全体の所要時間は2〜3時間程度を見込む必要があります。
副作用はでる?
稀にですが出る場合があります。
鎮静剤や麻酔薬は安全性が高いとされていますが、稀に副作用が発生する場合があります。
代表的な副作用は以下のとおりです。
副作用の例 | 内容 |
---|---|
呼吸抑制 | 呼吸が浅くなる、呼吸数低下 |
血圧低下 | めまい、立ちくらみ |
アレルギー | 発疹、かゆみ、呼吸困難 |
これらは主に鎮静剤、あるいは麻酔を使用することで中枢神経に作用する薬剤の特性によるものです。
しかし、検査中は常に医師や看護師が血圧、脈拍、酸素濃度などをモニタリングしているため、異常があればすぐに対応できます。
副作用のリスクを最小限にするためには、事前に既往症、服薬歴、アレルギー歴などを正確に申告することが重要です。
また、検査当日に体調不良がある場合は、無理せず必ず相談しましょう。
安全に検査を受けるための準備と情報共有が何よりも大切です。
お酒に強い人は鎮静剤も効きにくいというのは本当?
個人差があるので、一概にそうだとは言い切れません。
お酒に強い人は、肝臓での代謝機能が高いことが多く、鎮静剤の分解が早く進むため、薬の効果が出にくい場合があります。
これは、アルコールの分解に関わる酵素(アルコール脱水素酵素やALDH)が発達している人では、薬物代謝全般が活発になる傾向があるためです。
しかし、あくまでも「活発になる傾向がある」であり、必ずしもすべての人がそうだとは限りません。
また、不安な場合は医師に報告することで、使用する鎮静剤の量を調節してくれるので安全かつ快適な検査を受けることが可能になります。
自分の体質に合った鎮静方法を選ぶためには、遠慮せずに医師へ相談することが重要です。
まとめ
この記事では、胃カメラ検査で使用する鎮静剤について紹介しました。
胃カメラ検査で鎮静剤を使用することで、喉の反射を抑えて嘔吐感を軽減でき、ウトウトした状態で苦痛を感じにくくなり、検査の精度も向上します。
しかし、検査後の安静時間が必要で、当日の運転ができないなど、生活面での注意点もあります。
鎮静剤を使いたくない場合は、経鼻内視鏡という選択肢もありますが、鼻の状態によっては適さない場合があるため、必ず事前に医師と相談することが大切です。
自分にとって最適な方法を選ぶためには、正確な情報を理解し、不安を減らして準備を整えることが重要です。
安心して検査を受けるために、きちんと医師に話をし、安心できる検査をしましょう。